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高齢化社会

◆老いていく人類 途上国でも始まった高齢化


「世界人口は予想もしなかった空前の高齢化の途上にある」と警告する報告書「高齢化する世界:2008」を、米国勢調査局がこのほど発表した。20世紀は「人ロ爆発の世紀」と言われたが、21世紀は「高齢化の世紀」になることが確実になった。急激な高齢化によって、社会や経済の混乱や沈滞を招く国も増え、人類にとって深刻な問題に発展しつつある。

高齢化の世紀

お堅い政府報告書にもかかわらず、クイズで始まっているのが面白い。何問答えられるか、まずはつきあっていただきたい(答えは最終ページの末尾)。

Q1 世界人口のうち5歳未満と65歳以上(高齢者人口)とどちらが多い?
Q2 アフリカ、中南米、カリブ諸国、アジアの各地域のうち高齢者人口の割合がもっとも大きいのは?
Q3 国別で高齢者人口の割合がもっとも大きいのは?
Q4 80歳以上の超高齢者の増加率は65歳以上の高齢者よりも高い。ウソか本当か?
Q5 日本は世界の最長寿国だが、現在生まれた赤ちゃんは何歳まで生きられるか?

>答え 文末

報告書は高齢化の現状を9つの観点から述べている。

(1)世界人口の高齢化
(2)平均寿命の延び
(3)超高齢者の増大
(4)人口減少国の高齢化
(5)成人病の増加
(6)少子化などの家族構成の変化と介護者の減少
(7)税収入の減少と医療費・年金の負担増
(8)高齢者の社会保障制度の見直し
(9)労働人口の減少などの経済的な影響

20世紀中に人類の寿命は25年も長くなり、人類の歴史で5000年かかった延びをわずかの間に達成した。先進諸国を中心に、医学の進歩、社会経済の発展、栄養や公衆衛生の向上などによってもたらされたものだ。「不老長寿」をひたすら追い求めてきた人類にとっては、目的はかなりの程度達成されつつあるといってよいだろう。

総人口に占める65歳以上の人口比を「高齢化率」といい、高齢化の速度は65歳以上の人口の割合が7%から2倍になる年数(倍加年数)で表される。高齢化率が7%を超えると「高齢化社会」、14%を超えると「高齢社会」と呼ばれる。世界全体の高齢化率は、08年の7%から40年には2倍の14%に上昇する。つまり、倍加年数は32年である。

日本は70年に7%に達し、1996年に14%になるまでわずか26年間しかかからなかった。日本の高齢化は「史上空前のスピード」という形容詞がつく。というのも、他の先進地域では、フランス115年、スウェーデン85年、アメリカ71年、イギリス47年、ドイツ40年もかかっているからだ。しかし、これから続々と日本を上回る国が登場する。韓国は18年、シンガポールとコロンビアは19年、ブラジルは21年、チュニジアとスリランカは24年しかかからない。

途上国でも始まる急速な高齢化

2008年年央の世界人口は66億9000万人。予測によると、2040年に88億4000万人に達する。人口に占める65歳以上の高齢者は、08年は5億600万人で世界人口の7%。その前年から1040万人増加し、毎月87万人ずつ増えてきた。今後10年は毎年平均2300万人ずつ増える。40年には13億人を超えて世界人口の14%になる。1990年に高齢者が200万人以上いた国は26力国だった。それが2008年には38力国に増え、2040年には72力国に増える。

国別に2008年の高齢化率を見ると、クイズにあったように日本が21.6%で最も高い。「以前は高齢化率が高い国といえばスウェーデンやイタリアが引き合いに出されたが、現在では日本が最も老いた国になった」と報告書でコメントされている。

高齢化率は日本についでイタリア・ドイツ(20.0%)、ギリシャ(19.1%)、スウェーデン(18.3%)、スペイン(17.9%)、オーストリア(17.7%)、ブルガリア・エストニア(17.6%)、ベルギー(17.4%)などが続く。日本とグルジアを除く高齢化率トップ25はすべてヨーロッパの国である。

08年から40年の間に高齢者の人口に占める割合の増加を地域別にみると、西ヨーロッパが17.8%から28.1%に、東ヨーロッパが14.5%から24.4%に、北アメリカが12.8%から20.8%にそれぞれ増加する。また、この間に、80歳以上の超高齢者(85歳以上という定義もある)の人口は、西ヨーロッパが4.9%から9.3%に、東ヨーロッパが3.05%から7.8%になる。人口の1割近くが80歳以上という大変な未来が待ち構えている。

高齢化は先進地域の問題とされてきたが、発展途上地域でも急激な高齢化が起きている。途上地域に住む高齢者は08年には3億1300万人で、世界の高齢者の62%を占める。これが、40年には10億人以上に増加し、そのときの世界の高齢者の76%が途上地域の住人になる。

08年から40年にかけての高齢者人口の伸びは、コロンビア276%、インド275%、バングラデシュ261%、ケニア260%などで、人口構成が若い発展途上地域で出生率の低下などのために、これから急激に高齢化が進むとしている。先進国、途上国を問わず人類全体が高齢化しはじめ、「地球規模の問題」になりつつあることをものがたる。

2050年 アジアの4人に1人が高齢者

2008年時点で最も高齢者の数が多いのは中国で1億600万人、2位はインドの6000万人。この2つの人口大国を合わせた高齢者数は、世界の高齢者の3人に2人にもなる。日本は3位の米国に続く4位である。2040年になると、高齢者数は中国が3億2900万人、インドが2億2200万人に増える。

高齢者の中でも80歳以上の超高齢者は、最も急速に拡大する年齢層である。08~40年に世界人口は33%、高齢者は160%それぞれ増加するのに対し、超高齢者は233%も増えることが見込まれている。2008年の世界の超高齢者の52%は中国、米国、インド、日本、ドイツ、ロシアの6力国に集中している。

08から40年に高齢化率が最も速く進む国はシンガポールだ。ついでコロンビア、インド、マレーシア、エジプトなどで、トップ25位まではすべて発展途上地域である。これから、「南」の国々で高齢化が一段と加速する(この報告書ではシンガポールは途上地域に分類されている)。

世界の高齢化の進展状況を眺めると、アジアの高齢化の速度がほかの途上地域にくらべて格段に速い。出生率の急速な低下と長寿化が原因である。1人の女性が生涯に産む子どもの数である合計特殊出生率は、アジアでは2005年の2.34から2050年には1.90に下がる。人口が増減なしの静止状態になる「置換水準」の2.1を下回り、人口の自然減がはじまる。その一方で、平均寿命(男女合計)は69.0歳から、77.4歳に延びるため、高齢化率は6.4%から17.5%へ高まる。

特に、中国、日本、韓国などアジアは高齢化が急ピッチだ。アジア全体で高齢化率は、2000年に7.8%ですでに「高齢化社会」に突入し、2025年には15.0%で「高齢社会」に、そして2050年には24.8%、およそ4人に1人が高齢者になる。

高齢者問題国際行動計画

2008年の平均寿命(男女合計)は、日本が82.1歳で世界最長である。これに、シンガポールの81.9歳、フランスの80.9歳、スウェーデンとオーストラリアの80.7歳、カナダの80.5歳、イタリアの80.1歳が続く。他方、アフリカのジンバブエは39.7歳、南アフリカは42.4歳、マラウイは43.5歳などで、寿命には大きな格差がある。

2008年の日本の女性の平均寿命は86.5歳、男性は79.29歳。女性は24年連続世界一、男性は前年より1つランクを落として4位だった。男女とも3年続けてこれまでの記録を更新した。国別に比較すると、女性の2位は香港(85.5歳)、3位フランス(84.5歳)、4位はスイス(84.2歳)、5位はイタリア(83.98歳)。

男性の1位はアイスランド(79.6歳)、2位はスイスと香港(79.4歳)、4位が日本で5位はウェーデン(79.10歳)。国立社会保障・人口問題研究所の日本のデータで報告書を補うと、2055年の平均寿命は女性が90.34歳、男性が83.67歳にまで上昇する。すでに、日本の100歳以上の長寿者は、今年9月の時点で初めて4万人を突破して4万399人になった。昨年から4123人も増えた。

南デンマーク大学加齢研究センターやドイツ・マックスプランク研究所などの研究者が、英医学誌「ランセット」に発表した研究によれば、日本、米国、英国、フランス、ドイツ、カナダなどの先進国では、さらに寿命が延び続けて、今日生まれた赤ちゃんの半数以上は100歳まで生きられるという。

こうした人類の高齢化に対して、国連は80年代から危機感を抱いていた。82年に国連主催で初めての「高齢化に関する世界会議」が、オーストリアのウィーンで開かれた。会議では高齢者の問題だけでなく、高齢化がもたらす経済的・社会的・文化的な影響を含めた問題を広く討議した。

そして、各国の高齢化対策の指針となる「高齢者問題国際行動計画」が採択された。行動計画は、健康と栄養、高齢消費者の保護、住宅と環境、家族、社会福祉、所得保障と就業、教育など118項目が盛り込まれている。

02年にはスペインのマドリッドで「第2回高齢化に関する世界会議」が開催された。20年を経過したウィーン会議の結果を再検討するとともに、高齢化に関する国際行動計画を改訂することが目的だった。高齢者を一括して従属人口もしくは社会的被扶養者と見るのではなく、社会の資産・資源ととらえて高齢者の社会参加や世代間交流、さらには高齢者の役割を高めていく必要性が議論された。

これまで高齢化問題に関心の薄かった途上国も出生率の低下や寿命の延びが始まったことで、高齢化が身近な課題になり、多くの途上国政府代表が高齢化への取り組みを表明した。特に、貧困やエイズが高齢者の生活を圧迫している実態や、伝統的な家庭や地域における高齢者扶養システムが崩壊している現状などを訴えた。人口爆発の危機は終わったわけではないが、これに高齢化という新たな問題が人類に加わった。

石 弘之(いし・ひろゆき)
環境学者
東京農業大学教授。1940年生まれ。東京大学教養学部卒業後、朝日新聞社編集委員を経て、東京大学大学院総合文化研究科教授、同大学大学院新領域創成科学研究科環境学専攻教授、駐ザンビア特命全権大使、北海道大学大学院公共政策学特任教授などを歴任。2008年4月より、現職。『地球環境報告』(岩波新書)ほか、環境問題や途上国の開発をテーマにした著書多数。

(答)

A1 10年以内に史上初めて高齢者人口の方が多くなる
A2 カリブ諸国が7.8%で最大。ちなみに、中南米6.4%、アジア(日本を除く)6.4%、アフリカ3.3%
A3 日本
A4 本当
A5 82歳。ちなみに1947年当時は52歳

(出典:NIKKEI BPNET) 2009/11/20


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